Home / BL / ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する / 第2章:バッドエンドへの道 5

Share

第2章:バッドエンドへの道 5

Author: 社菘
last update Last Updated: 2025-07-02 17:00:17

 ノアもオリヴィアも去った庭園に再び一人になったベルティアが吐いた息が、存外大きく庭園内に響いた。そのため息の大きさに自分でも驚いてパッと口元を覆ってみたけれど、どうせ聞いている人はいない。

 なぜ自分がこんな目に遭わないといけないのか、運命の辛さを実感したらまた涙が滲んできた。

「……ベルティア?」

「ぱ、パーシヴァル殿下……」

「泣いてるじゃないか、どうしたんだ!?」

「いえ、これは……気にしないでください。目にゴミが入っただけなので」

 ゴシゴシと手の甲で涙を拭ったのもあり赤くなっている目元を見て、庭園に現れたパーシヴァルがひどく慌てて駆け寄った。パーティー会場を飛び出した庭園では色んなことが起こったり主要キャラクターに会うイベントが多いけれど、一つの場所で三人に接触するとは思っていなかった。

「擦ったら明日も赤くなってしまうよ」

「そう、ですね。すみません」

「よければこれを」

 そう言いながらパーシヴァルが自分の胸元に手をかざすと、彼の胸元に入っていたハンカチーフがふわっと宙に舞う。驚いて瞬きをした間にそのハンカチはウサギの形になって、ベルティアの膝の上にちょこんっと乗っていた。

「えっ、な、なんですか!?」

「ふふ。ただのハンカチだよ」

「いや、でも、動いてますが!?」

「魔法でウサギのように動くように細工したんだ。気に入った?」

 ベルティアの膝に乗っているウサギの形をしたハンカチは本当に生きているかのように動いていて、愛らしささえ感じた。

「こんなに可愛いハンカチ、使えないですよ」

 ベルティアが指でウサギの頬に触れると、本物のウサギのように指に擦り寄ってくる。その様子があまりにも可愛らしくて、ベルティアは小さく笑みをこぼした。

「やっと笑ったね」

「え?」

「ここ最近、ずっと難しい顔をしていたから。何か悩みがあるのかと思って」

「悩みといえば、悩みですけど……でも殿下に聞いてもらうほどのことでもないので、大丈夫です」

「ベルティア。僕は君と短い付き
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第2章:バッドエンドへの道 5

     ノアもオリヴィアも去った庭園に再び一人になったベルティアが吐いた息が、存外大きく庭園内に響いた。そのため息の大きさに自分でも驚いてパッと口元を覆ってみたけれど、どうせ聞いている人はいない。  なぜ自分がこんな目に遭わないといけないのか、運命の辛さを実感したらまた涙が滲んできた。「……ベルティア?」 「ぱ、パーシヴァル殿下……」 「泣いてるじゃないか、どうしたんだ!?」 「いえ、これは……気にしないでください。目にゴミが入っただけなので」 ゴシゴシと手の甲で涙を拭ったのもあり赤くなっている目元を見て、庭園に現れたパーシヴァルがひどく慌てて駆け寄った。パーティー会場を飛び出した庭園では色んなことが起こったり主要キャラクターに会うイベントが多いけれど、一つの場所で三人に接触するとは思っていなかった。「擦ったら明日も赤くなってしまうよ」 「そう、ですね。すみません」 「よければこれを」 そう言いながらパーシヴァルが自分の胸元に手をかざすと、彼の胸元に入っていたハンカチーフがふわっと宙に舞う。驚いて瞬きをした間にそのハンカチはウサギの形になって、ベルティアの膝の上にちょこんっと乗っていた。「えっ、な、なんですか!?」 「ふふ。ただのハンカチだよ」 「いや、でも、動いてますが!?」 「魔法でウサギのように動くように細工したんだ。気に入った?」 ベルティアの膝に乗っているウサギの形をしたハンカチは本当に生きているかのように動いていて、愛らしささえ感じた。「こんなに可愛いハンカチ、使えないですよ」 ベルティアが指でウサギの頬に触れると、本物のウサギのように指に擦り寄ってくる。その様子があまりにも可愛らしくて、ベルティアは小さく笑みをこぼした。「やっと笑ったね」 「え?」 「ここ最近、ずっと難しい顔をしていたから。何か悩みがあるのかと思って」 「悩みといえば、悩みですけど……でも殿下に聞いてもらうほどのことでもないので、大丈夫です」 「ベルティア。僕は君と短い付き

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第2章:バッドエンドへの道 4

    「お披露目パーティーって疲れちゃいますね。もっと楽しいものかと思ってたんですけど……挨拶するばかりであんまり楽しくないです」「もうすぐダンスが始まるでしょうから、この機会に色んな方と踊られてみては?」「ダンスといえば、ノア様にご紹介していただいた先生がとても厳しくて……」《セナ・フェルローネ 好感度:87%》《ノア・ムーングレイ 好感度:80%》 セナは最後に会ってから3%減、ノアに関してはこのパーティー会場で会ってすぐ、83%だったものが80%に落ちた。予想でしかないのだが、ベルティアがパーシヴァルのパートナーとして入場してきたからだろう。 なんせベルティアは今までどんな小規模なパーティーだとしても、彼からの申し出は断っていたのだから。ノアにしてみれば自分の申し出は断るのに他の男の申し出は受けるのかと、好感度が下がる気持ちも分かる。「すみません、夜風に当たってきます」 パーシヴァルとのダンスを終えたあとベルティアは会場を抜け出して、庭園の噴水に腰掛けた。満月が水面に映って揺れる様子を見つめながら、久しぶりに参加したパーティーの疲れを実感する。装飾品がついている服は異様に重いし、肩も凝る。きっと明日は全身筋肉痛だろう。「――ベル」 涼しい風がベルティアの頬を撫で、その風に乗ってきた声の主を確認したベルティアはそっと視線を逸らす。ベルティアと一瞬目が合ったあと、ノアはゆっくりとこちらに近づいてきた。「お前がこういうパーティーに出席するとは驚いた。来るつもりだったのならパートナーの申し出をしたらよかったな」「……パーシヴァル殿下からの申し出だったので、仕方なくお受けしただけです。そうじゃなければ来ませんでした」「そうだよな。ベルは俺の生誕パーティーにすら出てくれないのだから」「嫌味を言うためだけに来たのなら、お帰りください。こんな場所で二人でいるのを見られたくないです」「ベルティア・レイク」 噴水の縁に腰掛けていたベル

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第2章:バッドエンドへの道 3

     ベルティアとノアが出会ったのは、二人が7歳の時。 ノアは幼い頃は体が弱く、一時期は王都を離れ田舎の領地で療養していた時期がある。療養先はオリヴィア・ローズウッドの祖父が治めるローズウッド領で、そこに向かっている途中でノアの体調が悪くなり馬車を止めたのが運の尽き。 ローズウッド領に行くまでの道のりにはレイク男爵家が管理している村があり、夏でも涼しい森の中の泉で一休みしていたノアとベルティアが出会ったのが始まりだ。「ねぇ、どうしたの? 具合が悪いの?」「あ、えっと……」 ベルティアが日課であるお祈りをするために泉を訪れると、綺麗な顔をした男の子・ノアが項垂れていた。周りには誰もいなくて、食糧か何かを取りに行ったのか、ノアが一人になりたいと言ったのかは分からない。でもタイミングが良いのか悪いのか、ベルティアがそこに現れてしまったのだ。 きっとここで出会わなければ、今頃二人とも全く違う道を歩んでいたかもしれない。いや、正確にはベルティアだけは、違う道を歩んでいただろう。「待ってて、人を呼んできてあげる!」「い、いいんだ! 少し休めばよくなるから……」「そう? あ、お水持ってるよ! 飲める?」「う、うん……ありがとう」 王子たる者、見知らぬ人からもらう物には気をつけないといけない。ノアはそういうところはしっかりしているが、この時ばかりはベルティアの優しさに縋りたくもなるほど弱っていたのだろう。ベルティアがバッグから取り出した水をごくごく飲んだノアの顔色は徐々によくなっていって、額に滲んでいた汗もいつの間にか引いていた。「ここ、涼しいね」「そうでしょ! 女神様の魔法がかかってるんだよ」「女神様の魔法?」「うん。泉の神様! 具合がよくなるようにお祈りしてあげるね」 いつでも青白く光っている水面に向かってベルティアは手を合わせながら目を瞑り、具合が悪そうな少年のために祈りを捧げた。そんなベルティアのほうが

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第2章:バッドエンドへの道 2

     国が違えば結婚の在り方や爵位の授け方も様々だろう。でも、パーシヴァルが真っ直ぐな瞳で『自分が好きになった人を選ぶ』と言うものだから、そんな自由は羨ましいとさえベルティアは感じた。「……グラネージュでは無理ですね。王家に嫁ぐ者はそれなりの家柄でないといけないのは周知の事実です」「ああ、だから“血”を重視するのだなと言ったんだ」「でも、アルべハーフェンにも身分制度はありますよね?」「身分制度はあるが、グラネージュとは違って爵位の授かり方が特殊かもしれないな」「特殊と言うと?」「アルべハーフェンでは代々続く侯爵家、などはあまりない。もちろん続くいている家系もあるが、爵位を授かる基準は“魔力量”なんだ」「魔力量……?」「アルべハーフェンで生まれた者は赤ん坊でも魔力を持って生まれる。その魔力の量が多いほど高い爵位が与えられるんだよ」 本編では一度もアルべハーフェンの身分制度についての話は出てこなかった。そもそもパーシヴァルがベルティアや他のメインキャラクターに接触することすらイレギュラーなので、隣国の設定が詳細に決められているのも何ら不思議ではない。 それにしても『魔力量』で爵位を授かるというのは、グラネージュとは全く違うやり方や文化なのでベルティアは非常に興味をそそられた。「ただ、さすがに王族や公爵は例外だけどね。侯爵より下は平民であっても魔力量が多ければ爵位をもらえる」「でも、それって貴族だらけになるのでは?」「ベルティアの言う通りだ。だから“紋章”の有無も関係してくる」「"紋章”ですか?」「ああ。魔力量が多い分だけ、体のどこかに紋章が現れる」「へぇ……!」「僕の紋章はここに」 そう言いながらパーシヴァルが急に制服のボタンを外し、くっきりと鎖骨が浮かび上がる白い肌を見せる。左胸の鎖骨の下に青く光る不思議なマークが浮かび上がってい

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第2章:バッドエンドへの道 1

     食堂での一件以来、セナには本当にノアの口添えで王宮のマナー講師がついたらしい。ノアがセナに対してアクションを起こしたことで、学園内では二人の婚約が現実的になってきたという噂が流れるようになった。  たったそれだけのことでと思うけれど、貴族の令嬢や令息は婚約者探しには忙しいがそれ以外は所詮暇なのだ。噂話やゴシップが大好きで、ネタになりそうなことを探しては話を盛って噂を流す。ノアの婚約者の席を狙っていた人たちはセナの登場で、自分には勝ち目がないと諦めたらしい。「ベルティア、おはよう。ちょうどよかった、会いたいと思っていたんだ」 「おはようございます、パーシヴァル殿下」 「ああ。少しいいかい?」 「もちろんです」 生徒たちが登校してくる前、朝早くの図書室。ベルティアがいつもの席で読書をしていると、同じように朝早くやってきたパーシヴァルが向かいの席に座った。「今度、セナ殿のお披露目パーティーがあるから参加してほしいと言われたんだけど、ベルティアは行く予定?」 「あー…俺はあまりそういう場は好きではなくて……」 「そう言うと思った。ただ、無理を承知で頼みたいことがある」 「なんですか?」 「僕のパートナーとして一緒に出席してくれないか?」 パーシヴァルからの予想外の申し出にベルティアは固まった。ベルティアとパーシヴァルは図書室で会えば話す仲ではあったけれど、まさかパーティーの同伴を頼まれるとは思わなかったのだ。ただ、隣国の王太子からの申し出を断れるほどベルティアは偉くないし、馬鹿正直に「無理です」と言うと不敬罪になるだろう。  ベルティアが返答に困っているとパーシヴァルもそれを察したようで、ぽりぽりと頭を掻きながら苦笑した。「突然すまない」 「い、いえ……でも驚きました」 「実は、パートナーとしてオリヴィア・ローズウッド嬢を推薦されているんだ」 パーシヴァルの口から出てきた名前にぴくりと反応する。オリヴィア・ローズウッド、まだ会っていない最後の攻略対象者。ローズウッド侯爵家の一人娘で、ノアかライ

  • ベルティア・レイクはバッドエンドを所望する   第1章:邂逅と悪役令息 8

    「……まぁ、見て! どうしてあのメンバーの中に男爵家の人間が混じっているのかしら?」 「あら、本当……身の程知らずもここまできたら滑稽よね」 ――そんなことは自分が一番分かってる。 食堂に来ると案の定、周りからヒソヒソと陰口を言われているのがベルティアの耳に届いた。ベルティアの耳に届くということは他の人にも聞こえているだろうけど、全員なにか訓練でも受けているのかというほど気にしていなかった。「……ジェイドは俺の隣。絶対に離れないで」 「えっ、あ、ああ。分かった」  《好感度:67%》 ジェイドは昨日せっかく64%まで落ちたのに、今の言葉で3%も上がってしまった。ベルティアはただ、できるだけ平穏に過ごせる人の隣を選んだだけだったのに、そんな些細なことだけで好感度が上がるとは思わなかったのだ。  ……ということは、好感度が表示されていない人を選んでいれば、他の攻略対象者の好感度が上がることはないのではないか?「パーシヴァル殿下、お隣よろしいでしょうか?」 「ああ、もちろん。いつも図書室では向かいの席だから新鮮だな」 「ですね」 パーシヴァルが相手だと、好感度を気にしなくてもいいので楽だなということに気がついた。ただ必然的にベルティアがジェイドとパーシヴァルに挟まれる席順になり、向かいの席はムスッとした顔のノアと気まずそうなライナスに挟まれている笑顔のセナ。結果的にはこの席順でよかったと思うけれど、なんせ目の前にいるセナのキラキラオーラでベルティアの目は潰れそうだった。 ただ、ベルティアはこれをチャンスだと思うことにした。なんせ今、オリヴィア以外の攻略対象者がこの場に集まっているのだ。ベルティアがここでセナに対して嫌がらせや嫌味を言えば『悪役令息』だと全員から認知してもらえることを期待した。「ノア殿下は鍛えていたりするんですか? 二の腕とか僕の二倍はありますね」 「ああ、まぁ……それなりにだ」 「へー! 僕も鍛えたら殿下のようになれますかね?」 「君は……どうだろうな。元が華奢だからあまり筋肉はつかない

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status